アンナチュラルを見ました。
個人的な好みにハマりきりはしませんでしたが、よくできてるし面白かったです。
以下ネタバレ含みつつ書いていきます。
なんというか、世にも奇妙な物語のスペシャルとかでSNS使ったネタやる時のダサさあるじゃないですか。無理な"現代"感というか。あのダサさのない現代風の空気感を全体的に感じて、そこは上手いなと思いました。
第一話とかわかりやすいかな。雑な"現代"をやる話だと下手したらあのSNSでバッシングが広がってく感じのところ描いて満足して終わっちゃうかもしれないじゃないですか。でもこの話はその奥にもう一個真相があって、それってつまりあのバッシングが広がっていく部分は「ただそうあるもの」くらいの自然であって、もはやわざわざ描こうとするものじゃないって感覚なんだと思うんですよね。
ああ、あといじめの描写とかも上手いなと思いました。いわゆるいじりとしてギャグを強要されるシーンがあるんですが、そのギャグがぎりぎりちゃんと面白いんですよね……。なんというか、そこでめちゃくちゃ寒い、ただただみじめなだけのギャグを強要させられる方が描写として直接的でわかりやすくはあるんですよ。けれどそれは記号的過ぎる。記号を記号としてのみ認識するんじゃなく、その記号を提出するためのディティールをちゃんと組み立ててるのは偉いと思いました。
あと坂本さんは一見あまり役割を持てていないんですが、あれはたぶんこの話の中でかけてしまった視点を補う役割だと思うんですよね。こうした物語の中で許されてきた、中堂さんみたいなキャラクターとしての傍若無人が受け入れられるラインがおそらく下がってきてて、ああした傲慢さを野放しに描くことはもう感覚としてズレ始めている。だから坂本さんによる非難を入れることでバランスをとっている。
そのほかにも六郎君に対する穏やかな棘を感じる「きみ、育ちよさそうだもんね」のひとこととか、この話の中で欠けた視点に対してぎりぎりのフォローを入れつつ、演者自体のキャラクターも手伝って愛嬌のあるおじさんキャラに収め切って、それゆえにそのあたりに切り込みすぎずに(≒物語のリソースを吐きすぎずに)逃げ切ってるのは巧みだよなと思いました。
この作品のフェイタルムーブ、決め技は基本的には米津のLemon流しながら「被害者のささやかな温かい幸福」と「それが犯人の身勝手で壊れていく過程」をカットアップした映像を流すというやつなんですが、まあ性格悪いよな……。この性格悪いは効果的だよね、くらいの意味なので誉め言葉です。
4話のやつとかもはや露悪的といっていいほど最悪ですよ。一緒に見れなかった花火なんだけど、それでも喜んでいた、きれいだと思えていた。だけどそれは簡単に踏みにじられる。
糀谷さんの絵本の内容と彼女の死体の発見状況の対比とかも含め、とにかく残酷な対比をかなり絵的に見せてくるんですよね。
あとは毎話構成しっかりしてるなぁ……と感じる。ただあまりにキレイにテーマに収束しているのでやや人工的にも感じられちゃうかも。それを悪いとは思いませんが。
8話の「遥かなる我が家」とかわかりやすいですかね。帰る場所としての家ってテーマで、焼死事件とミコトにとっての家、そして六郎にとっての家≒父親の話、それと帰れない遺体の話がうまく重なりを持って、ラストの六郎の「帰れたんだ、よかったぁ……」という複雑な泣き笑いの表情に繋がる構成のきれいさとか。
ただその8話と最終話付近のリンクはなんというか構造をきれいにしようとしすぎではという感じがある。たぶん「ポッと出の真犯人」を避けたかったんだと思うんだけど、そこの偶然は物語上必要がなかったでしょ……。
正直なところ最終話付近はちょっと微妙なんですよね。正直この作品のうまさは単話内での構成のうまさだよなというところがあって、もちろん全体のストーリーラインはあるし、中堂やミコトの大枠のストーリーについてはたびたび各話で掘り下げられていくんですが、その機能の仕方が単話的なんですよね。
なんというか、各話でこまごまとした描写を積み上げて大きなストーリーを作り上げるという向きじゃなくて、大きなストーリーによってキャラクターのバックボーンに重みが出て、そのキャラクターがバックボーンと呼応したセリフを述べることによって各話に厚みが出てくるという向きで使っているように見える。
だから最終話付近って、ある意味で知ってるバックボーンについての消化試合みたいになってしまっている。もちろん最終決戦なのでそれ相応の盛り上がりがありはするものの、それまでの話にあったような構成的なうまさは少し欠けているように思えました。
あと葬儀屋さんのキャラめっちゃよかった。終わり際のあの死体処理まで普通に引き受けようとするのは流石にお前いったい何なんだよと思わなくはなかったけど……。
脇キャラをこういう異常者にしとくとああいう風な使い方でリアリティをジャンプできつつ、脇キャラなので作中のリアリティラインをぎりぎり壊さないで済むので実はめちゃくちゃ便利な技なんじゃないかなと思った。
あとBGMがサスペンスドラマとしては結構独特でしたよね。あのコーラス入るやつとか。慣れるまで不思議な感じしたけど慣れたら結構よかった。
終わりです。
